ERCプロジェクト概要

本プロジェクト「日本帝国の崩壊と戦後東アジアにおける正当性獲得に向けた闘争」は、第二次世界大戦以降、東アジア域内各国が自らの命運をどのように切開き、それが今日の域内の国際関係にいかなる影響を与えているかを大局的に考察する歴史研究プロジェクトである。本研究は、1945年以降、日本帝国統治が崩壊した後の東アジアにおいて、日本、中国、南北両朝鮮、台湾等各国が政治的、法的権威を確立していった過程を明らかにする。

The new identities and ideologies that emerged in East Asia after the fall of Japan’s Empire have rarely been studied. Now, as the region again becomes a major theatre in world politics, a new project aims to tell that history from the inside.

1950年代の中国における国家宣伝(プロパガンダ)として制作された風刺画(シカゴ・リサーチ・ライブラリーセンター所蔵)

日本帝国消滅後の東アジアにおける歴史は、これまで主として西洋の視点から描かれてきた。これは、戦後の米国学術界の圧倒的な優勢、また国際政治における同国の支配的地位を背景にしていたと推測される。更に、米国においては体系的に史料公開が実施され、公文書・私文書双方へのアクセスが容易であることにも起因している。現在の東アジアにおいては、中国が驚異的な経済発展をとげ、国際社会における同国の重要性は一層高まっている。それにもかかわらず、東アジア地域の過去に対する理解もさることながら、現時点における域内の力学でさえも、依然として第二次世界大戦がどのように終焉したかということによって深く既定されている。この研究は、各地における戦犯及び日本帝国の協力者に対する法による裁きを通じ、日本帝国の支配そのものが、どのようにしてかつての非植民地各国から裁かれたかという過程を明らかにしている。戦犯、協力者、更には反逆罪の容疑者を捕らえ、法に基づいて裁くことは、植民地支配下の残虐な行為に対する恨みをはらし、正義をはたすことを通じ、帝国の崩壊によってもたらされた階層の逆転に対応することを可能にした。同時に、新たに確立された諸政府が公正、公平であることを示すことができ、これが各国政府に対する国内外からの支援を得る上での決定的に重要な要素となった。本研究が示すように、突然の降伏は、日本が即座に帝国主義的イデオロギーを捨て去ることに繋がった訳でない。寧ろ、そこに到るには、長い時間の経過が必要であったことが明らかにされる。第二次世界大戦終戦直後に設立された諸政府は、日本帝国の圧政下で苦しめられてきたそれらの国々の人々が望んだように、日本人に対して復讐をはたすどころではなかった。東アジア地域を取り巻く国際環境、各国内の内戦を背景として、まずは新政府樹立に必要な支援を確保するという直近の最終目標達成を危うくするような余裕を持つことは、毛頭許されなかったのである。

冷戦初期、東アジア各国における法制度の構築、及び日本と近隣諸国との関係は、域内におけるかつての帝国主義的関係を是正する上で、重要な機能を果たした。法に基づいた捜査や裁判の実施は、まさに国際法が遵守されるということであり、これは特に東アジアにおいては比較的新しい概念であった。この過程において、犯罪行為は公の場において裁かれ、一体誰が日本人、中国人、朝鮮人であるかが特定された。これは一見容易なことと思われる。しかしながら、帝国下においては、民族や国境の線引きは往々にして曖昧なまま保たれており、これが日本の突然の降伏に伴い、一気に再浮上してきたのである。5年がかりで行われる本ERC研究プロジェクトは、国際法廷の設置、及び東アジアにおける戦犯の追及の背後にある歴史を研究する。そして、東アジアに新たに生まれでた市民が、どのような過程を経て、自らを国際舞台における政治的主体として、また、日本帝国崩壊後の現地の正当な主体として認識していくようになるかという、これまで見過ごされてきた問題の解明に取り組む。これら諸問題の遺産は、今日においても東アジアにおいて重くのしかかっているが故にこそ、その分析は、戦後の東アジアにおいて日本帝国主義を何によって置き換え、既定していくことができるかを域内各国が考察する上での新たな方向性を示すことを可能とする。